「彩雲が出てます」
高価そうな望遠カメラを携えた青年が教えてくれた。
あ、ホントだ!
夕日の左側にちょっと明るい部分。
タブレットの写真じゃサッパリだけど
とても綺麗な虹色の光の束だった。
太陽の近くに雲が接近、たまに
雲に含まれる水滴に生ずるプリズム現象。
西方極楽浄土から
阿弥陀如来が来迎される際、
お乗りになる雲として、
古来より、吉兆のしるしとされている。
ありがたや、ありがたや。
風が強く、雲の動きが早かったから
この現象はすぐ消えてなくなる。
鑑賞チャンスはほんの数分。
見逃さなくてラッキー!
ワタシも誰かに教えてやりたくなった。
ちょうど30メートルほど先に
大山を眺望するベンチに
若いカップルが並んで腰かけていた。
夕焼けに背を向ける形で
おたがいの会話に夢中だ。
彩雲どころか、まわりの景色も
目に入っていないかんじ。
二人っきりのデートが楽しくて
たまらない様子だ。
時季的に考えると、
卒業式を控えた高校三年生あたりかな。
受験を終えた解放感みたいのが
思いっきり周囲にはじけてる。
彩雲を教えてやろうかな、
でも、余計なお世話かな~。
望遠カメラの青年に
彼らにも教えてやってよ、と提案すると
「いやあ、それはちょっと・・・」
と苦笑い。
そりゃそうだよなあ。
ハッピーな彼らを邪魔しちゃいけない。
一生の思い出になる、宝石のような時間を
過ごしているのかもしれないのだ。
だとしたら、二人の思い出にさらに
彩りを加える雲になるかも。
教えてあげた方がいいのでは?
めったにないラッキーなのに、
見逃したら逆にアンラッキーだろう。
しばらく、腕組みしながら考えて
…結局やめた。
彩雲も彼らも、めったに出くわさない
ハッピーな現象だ。
手を合わせて静かに拝むだけにした。
ありがたや、ありがたや。
0 件のコメント:
コメントを投稿