2017年3月13日月曜日

彩雲を拝む


「彩雲が出てます」
高価そうな望遠カメラを携えた青年が教えてくれた。
あ、ホントだ!
夕日の左側にちょっと明るい部分。
タブレットの写真じゃサッパリだけど
とても綺麗な虹色の光の束だった。
太陽の近くに雲が接近、たまに
雲に含まれる水滴に生ずるプリズム現象。

西方極楽浄土から
阿弥陀如来が来迎される際、
お乗りになる雲として、
古来より、吉兆のしるしとされている。
ありがたや、ありがたや。

風が強く、雲の動きが早かったから
この現象はすぐ消えてなくなる。
鑑賞チャンスはほんの数分。
見逃さなくてラッキー!
ワタシも誰かに教えてやりたくなった。

ちょうど30メートルほど先に
大山を眺望するベンチに
若いカップルが並んで腰かけていた。
夕焼けに背を向ける形で
おたがいの会話に夢中だ。
彩雲どころか、まわりの景色も
目に入っていないかんじ。
二人っきりのデートが楽しくて
たまらない様子だ。

時季的に考えると、
卒業式を控えた高校三年生あたりかな。
受験を終えた解放感みたいのが
思いっきり周囲にはじけてる。

彩雲を教えてやろうかな、
でも、余計なお世話かな~。

望遠カメラの青年に
彼らにも教えてやってよ、と提案すると
「いやあ、それはちょっと・・・」
と苦笑い。

そりゃそうだよなあ。
ハッピーな彼らを邪魔しちゃいけない。
一生の思い出になる、宝石のような時間を
過ごしているのかもしれないのだ。

だとしたら、二人の思い出にさらに
彩りを加える雲になるかも。
教えてあげた方がいいのでは?
めったにないラッキーなのに、
見逃したら逆にアンラッキーだろう。

しばらく、腕組みしながら考えて
…結局やめた。

彩雲も彼らも、めったに出くわさない
ハッピーな現象だ。

手を合わせて静かに拝むだけにした。
ありがたや、ありがたや。






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